所謂スイートソウル。この括りに於いても、VIPと称するべき名グループが何組も挙げられ、1組だけを選ぶなど至難の技ですが、私にとっての40年来のall-time favoriteであり、特にコロナ禍の今、また改めて、その素晴らしさに感じ入ることしきりのグループが、The Moments〜Ray Goodman & Brown。2020年の今聴いても、私が彼らの名曲に出会った時と同じか、もしくはそれ以上の感銘を覚えています。決して古臭くないにもかかわらず、また、あくまでも洗練された都会的なエレガンスを醸しているにもかかわらず、今、現在の音楽には求め得なくなってきた人肌の温もりを伝えてくれる歌世界で、その点に於いて、私の中で、他の追随を許さない、極めてスペシャルなグループです。
番組では、2002年2月に、Ray Goodman&Brownでの来日公演時に、Al Goodman、Billy Brown、Larry ‘Ice’ Winfreyの3名を取材。この取材では、このグループの歌世界、音楽世界の魅力が、彼らの人となりに直結したものであることを知ることができて、大いに納得したりもしたものです。特にAl Goodmanとの取材では、私も85年に3ヶ月を過ごしたことがあるNew Jerseyについての話で大いに盛り上がり、このNew Jerseyという土地柄もまた、彼らの音楽の魅力の大きな在処であることを改めて思ったりもしました。そんな訳で、Alが2010年7月26日に享年67で逝ってしまったという訃報は、とてもショックで、暫くの間、彼らの曲を聴くと、涙を堪えることが出来ませんでした。とはいえ、彼らの曲を聴いて涙が溢れるというのは、その当時に限ったことではなく、例えば、余りに美しい夕陽を見て溢れる涙―に近い涙は、何度となく私の頬を伝ったことがあるのですが、それとは別種の涙でした。
その後、2005年の夏には、番組のシリーズ特番『The Soul VIPs』で彼らを取り上げました。『The Soul VIPs』は、毎回ソウルミュージックの偉人にスポットを当てて、その音楽の魅力や輝かしい功績、またライフ・ストーリーや人物像などにも触れつつ、それぞれの足跡を辿る約1時間枠で、この番組の制作は、レギュラー番組の何倍もの労力と時間を要するものでしたが、パートナーの中尾と大いにやり甲斐を感じ、産みの苦しみも愉しみに変えて制作に当たることが出来た、私にとっても、スペシャルな特別番組でした。そんな訳で、以下、その『The Soul VIPs/The Moments~Ray Goodman & Brown編』でご紹介した彼らのストーリーの再校です。
『The Soul VIPS』 Selection
The Moments ~ Ray Goodman & Brown
オリジナル版の放送は2005年、8月19日
ロマンティックで甘く蕩けるような‘70sスイート・ソウルを聴かせてくれる名ヴォーカル・グループ、The Moments。Ray Goodman&Brownと改名して以降も活動を続けている大ウ゛ェテラン・グループです。The Momentsが結成されたのはアメリカ東海岸、NYに隣接するニュージャージー州。自らもシンガーとして活躍し、ベッドタイム ミュージックとして名高い「Pillow Talk」の大ヒットで、その名を知られる女性プロデューサー、Sylviaによって1968年に集められた3人組、それが、The Momentsでした。オリジナル・メンバーは、マーク・グリーン、リッチー・ホースリィ、それにジョン・モーガン。デビュー曲「Not On The Outside」がR&Bチャートで6位をマーク。今もソウル・クラシックとして名高い、この曲で、幸先の良いスタートを切ったThe Momentsでしたが、このオリジナルのラインアップは極めて短命で、2年後の1970年には、なんと3人全員がすっかり入れ替わっていました。新生モーメンツのラインアップは、ニュージャージー出身で、クリアーかつスムースなハイトーン・ヴォイスの Harry Ray、そして、南部ミシシッピー州出身、包容感溢れるふくよかな低音ヴォイスが魅力のAl Goodman、それに、ジョージア州出身、その個性的なファルセット・ヴォイスでエモーショナルに歌い上げる Billy Brownの3人です。いずれも20歳前半の若者でしたが、それぞれ10代の頃から様々なローカル・グループで歌って来た、そこそこのキャリアの持ち主達でした。この3人こそが、70年代に数々のヒット曲を放った人気グループ、The Moments, その黄金期を築き上げたメンバーに他なりません。
70年代前半、この新生The Momentsは、フィラデルフィアのThe Stylisticsや、シカゴのThe Chi-Lites等と共に、この時代のヴォーカル・グループの一大ブームを担う人気グループへと上り詰めました。70年にR&Bチャートで見事、5週連続でNo1に輝き、全米ポップチャートでも3位をマークして彼等の代表曲となった「Love On A Two Way Street」, 邦題「孤独なハイウェイ」は、そもそもはHarrry Rayが加入する直前にレコーディングされたナンバーでしたが、新生The Momentsが、これを歌い継ぎ続け、その後、Harryがリードを執った爽やかメロウな名曲「Look At Me」は75年にR&Bチャートで1位をマーク。
68年のデビューからの約11年間で25曲ものトップR&Bヒットを放ち、それらは70年代のブラックミュージックの専門(ソウル系)ラジオ・ステーションの定番となり、80年代以降は、そんな彼等による名曲の数々が、多くのシンガー達によってカウ゛ァーされるようになりました。Disco ブームが勢力を増した70年代後半、彼らの人気も徐々に下降線を辿り始めてしまいましたが、79年の秋。彼らは心機一転、シーンに戻ってきてくれました。レコード会社の移籍に伴い、グループ名をRay Goodman & Brown と改名しての再デビューを果たしたのです。ただシンプルに3人の名前を並べた、この新しいグループ名への変更は、実は、彼等の本意ではありませんでした。しかし、The Momentsというグループ名の権利を持っていた以前の所属レコード会社からの使用許可が下りなかったため、彼等は、名義の変更を余儀なくされたのでした。
The Momentsとして長年、歌い続け、ファン達に親しまれて来た3人にとって、その名を失う事は、確かに大きな痛手には違いありませんでしたが、にもかかわらず、彼等は、この逆境をモノともせず、大成功を収めたのです。Ray Goodman & Brownの第一弾シングル、番組冒頭でお聴き頂きました「Special Lady」の大ヒットで、見事、シーンに返り咲いた彼等は、80年代の人気グループの仲間入りを果たしました。そんな80年代の彼らでしたが、ちょっと不思議なナンバーが存在して居ます。79年に改名したハズにもかかわらず、翌80年にThe Moments名義でポツリと12インチシングルで放たれた新曲「Baby Let’s Rap Now」です。この曲の正体はというと、彼等が、まだThe Momentsとして活動していた頃に録音していた未発表曲でした。つまりは、前のレコード会社が、彼等の人気再燃に便乗してリリースしたと思しき一枚です。
そんな不透明な背景が災いしてか、このシングルは全くヒットせず、それどころか、このレコードの存在自体が、一部の熱狂的なスイート・ソウル・マニア達の間以外では、ほとんど知られていません。しかし、その知名度に反して、実に素晴らしいレア・ナンバーで、爽やかなハーモニーと、メロウなグルーヴ感が絶妙にマッチして最高の心地好さを醸している、まさに、知られざる名曲です。この番組のオンエア当時では、それこそ、この曲は、ちょっとした目玉だった訳ですが、今や、youtubeでも聴くことができるようになって居ますので、是非チェックしてみてください。
さて、The MomentsからRay Goodman & Brownへと生まれ変わり、80年代の幕開けと共に、第2の黄金期を迎えた彼等。82年には、Harry Rayがソロ活動を展開するため、一時、グループを脱退しましたが、3年後には復帰。しかし、92年、そのHarry Rayは、45歳という若さで、この世を去ってしまいました。残された2人は、長年の仲間であり、掛け替えの無い友人であったHarryの突然の死に、大きなショックを受け、暫くは、歌う気力を失っていた—といいますが、その後、以前にもHarryの代役を務めていた実力派シンガー、Kevin Owensを新メンバーとして迎え入れ、彼等は再び蘇りました。以降は、ライヴ活動を中心としているRay Goodman & Brown。そのライヴ・ショウの素晴らしさは、本国アメリカは勿論、ヨーロッパや日本のファン達の間でも有名でした。最高のハーモニー、粋なダンス、そして、優しく包み込んでくれるような、温かなハッピー・ウ゛ァイヴ。2002年の年明けに久々に行なわれた日本公演でもしっかりと披露してくれたその極上のパフォーマンスは、私だけでなく、会場に赴いた全てのファンの胸に鮮やかに、その感動を刻んでいることと思います。 そして、2010年にAlが逝ってしまってからは、91年から93年までRay Goodman & Brownで活躍し、2000年以降はThe Stylisticsのメンバーとして18年間に及んで活躍したEban BrownがBilly Brownと共に2014年4月にリリースされた『The Moments Greatest Hits』の再録に尽力。この2014年にはLarry ‘Ice’WinfreeがAlに代わる存在として正式にメンバーに復帰して、以降は、Kevin OwensとBilly Brownのトリオで活動を展開中です。
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